【粗相の記憶】第1話:記憶の扉が開くとき

【シリーズ】粗相の記憶

強い夕立はあがり、さっきまでの熱気が穏やかになった。
自宅兼用となる小さな定食屋は、近年の感染症流行がきっかけで苦しい経営状態だった。もともとわずかな黒字のもとに成り立っていた店だが、ここ数年はギリギリ保っている状態。世の中は、日常に戻りつつあるとの声も聞くが、うちの店に限っては感染症流行以前に戻り切れていない。

10時43分。
ランチ時に向けて準備を進める店の扉が開いた。「準備中」の札は出していたはずだが・・・

店内に、慌てた表情をしたスーツ姿の若い女性が顔を覗かせる。
見た感じかなり若い。就活の女子大生だろうか。パリッとした型崩れの無いスーツと、そのスカートから見えるパンスト越しの足には、なにかそそられるものがある。

「すいませーん、まだ準備中です」

厨房から軽く顔を出し、彼女に伝える。
彼女は困惑した表情だが、店から出ようとしない。
不思議に思って彼女に近づく。

「あ、あの、・・お手洗い・・・お借りしてもいいですか?」

うちの2軒隣りにはコンビニがある。
だが、あの店は客にトイレの貸し出しをしていない。そのため、彼女のようにうちの店を訪ねてくる人もいる。

「あぁ、そういうことでしたか。
 お手洗いは、あちらの奥にありますよ」

小さな “ありがとうございます” という声の後、女性はバタバタとトイレに向かっていった。
若い女性が、あんなにも慌ててトイレに向かうとは、よっぽど限界に近かったのだろう。

彼女がトイレに駆け込み、10分程が経過した。なかなか時間がかかっているようだ。
まぁ、一言で「トイレ」といっても、どのように用を足すかによって所要時間も変わってくる。そこに触れてしまうのは失礼であり野暮なことだろう。

それから数分が経過した。

ガチャ

トイレの扉が開く。

出てきた女性は

「すいませんでした」

と謝ってくる。

文脈でとらえれば、「営業時間前にすいません」という意味にも聞こえるが、彼女の様子から、そのニュアンスは選択肢から外れた。

足元は来店した時に履いていたパンスト姿ではなく、生足に変わっている。

そして、真っ赤な目をして手にはスマホを握っている。

「あの・・・・・」

たどたどしく事後報告をする彼女の口からは、丁寧な言葉を心掛けているように

「・・・・粗相してしまいました・・・」

という言葉が出てきた。

そのまま彼女は深々と頭を下げる。

「あの、申し訳ございませんが、お掃除の道具をお借りできないでしょうか?」

彼女が望むまま、掃除道具を渡す。

「ごめんね、うちの店だから僕がやるべきことかもしれないけど、開店の準備が合って・・・」

「そんなことないです!私が・・・・・
 ・・しちゃったことなので・・・」

消え入りそうな声を出したのち、彼女は改めてトイレに向かった。

掃除を済ませた彼女は、深いお辞儀でお詫びをし、店を後にした。

・・・一応、使えるか確認しておくか

開店準備にめどが立ったこともあり、トイレに向かう。トイレは普段僕が掃除しているときよりも明らかにきれいになっている。
これだけ綺麗に掃除してくれる子だ。
経営に余裕があれば、うちでバイトでもしてほしいくらいだ。

だが、あんな恥ずかしい失態を犯したのだ。
彼女がこの店を訪ねることは二度とないだろうな。
念のため、ゴミ箱もチェックする。

朝イチでごみを捨てたはず。だが、そのごみ箱の底に何かが落ちている。
取り出してみようと伸ばした手が、それに触れると、手が濡れたことを感じた。

もしかして・・・・

ごみ箱から出てきたのは、パンストと薄い黄色の女性用の下着だった。
さきほどの彼女が履いていたもので間違いはないだろう。

ベージュで薄手のパンストは丸められていて、全体的に湿っている。

薄黄色のパンツは光沢のあるサテン素材でフロント部分には花柄のような刺繍が施されている。

大人の女性が穿くそのパンツは、大人の女性には似合わないくらいクロッチからお尻部分、フロントの刺繍までをぐしょぐしょに濡られていて、彼女の失態の大きさを物語っていた。

うら若き女性のお漏らしパンツ。
2階からデジタル一眼レフを持ってきて、パンツを広げてシャッターを切る。
さすがに汚れたままであることには抵抗があるため、一度洗濯はしよう。

乾いたら、箱の中に・・・

さきほどの女性のおもらしパンツを2階の洗面台で手洗いするうちに、僕の記憶が呼び起こされていった。

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