「すいません。
妹がご迷惑をおかけしました」
夕方の開店に向けて準備中の札を出していた店内には、近所に住む高校生がいた。
彼女については幼いときから見覚えのある女の子だ。
彼女は学校帰りに家まで間に合わないと判断したのだろう。慌てた様子でうちの店に飛び込んできた。だが、トイレの扉を目の前にして水たまりを作ってしまった。漏らしてる最中でしゃがみ込んでしまい、制服のスカートもびしょ濡れになっている。
いま、彼女の姉が着替えを持ってきたところだった。
店の奥で着替えを終えた彼女。
上半身は制服、下半身はジャージという不自然な格好。
おもらしをした当の本人は「なんで上も持ってこないの」など姉に向かって怒っていたが、「漏らしたあんたが悪い」と一蹴され、落ち込んでいる。
「本当にご迷惑おかけしました。」
帰り際に改めて姉が謝罪の言葉を述べ、姉妹は帰っていった。不自然な格好で定食屋から出てきた女子高生は、数人から視線を集めていた。
お姉ちゃんの方も、立派になったな。
駅伝大会でおもらしをして泣きながら着替えてた姿からは成長したなと感慨にふけっていた。
懐かしいことを思いながら、僕は苦笑いしていた。
お姉ちゃんの方は確か大学生になったころだろう。
妹ちゃんが大学生になるその日まで、このお店は残っているのだろうか。
客足は思ったように戻らないまま時間だけが過ぎていく。
いい加減このお店の経営も厳しい。
幸い、自宅の1階を店舗としているためテナント料などは発生しないが、このままでは、本格的に負債を抱えてしまう。
借金となれば、住む家さえも失いかねない。
新メニューをつくるか、新サービスを準備するか。
それとも・・・・もう畳んでしまうか。
どれだけ悩んでも答えはわからなかった。
そんな状態のまま、何も前進することなく仕込みを始める。
準備中の立て札を出しているにも関わらず、店の扉が開いた。
「あ、準備中でして・・・・」
「いえ、あの・・・・」
入店してきたのは、襟付きの白シャツにピンクのひらひらとしたミニスカートを履いた女の子。歳は20前後といったところか。髪は黒に近い茶髪で、くるくると巻いてある。
シャツはミニスカートにインされている。
いわゆる“地雷系”ファッションというやつか?
「あの・・・・・
先月お邪魔しました者です・・・」
先月?
このお店に若い女の子が来ることはあまり多くない。
つい1ヵ月ほど前に彼女のような女の子が来ていたのならば、覚えているはずだと思うが、記憶になかった。
「え~っと、ごめんなさいね。
毎日いろんなお客さんがいるもので・・」
「あ・・・あの、・・・先月・・・」
「先月?」
彼女は一呼吸ついて、意を決したように話し始めた。
「先月・・・・スーツ姿で、こちらのお店で粗相してしまった者です」
服装や髪型が変わると、ここまで別人に見えてしまうものなのか。
驚いた。
目の前の彼女は、先月のおもらし女子大生だった。
「あの、今日はちょっとお聞きしたいことがありまして・・・。
営業時間になってしまうと、他のお客さんがいて、お話できないと思いまして」
あぁ、確かにデリケートな内容だ。
まわりに誰かいるような時間帯に話をすることは避けたい。
「短時間で済む要件かな?」
「・・・」
「1時間後にまた来てください。今日は少し仕込みが遅れているので」
わかりました、とだけ言葉を残して彼女が店を出ていった。
今夜もおそらく客は多くないだろう。
本当のことを言えば、もう30分もすれば準備は終えられるはず。
だが、実は内心怯えていた。
さきほどの彼女の目は、なにか怯えたような目ではなかった。
謝罪をするときのような目でもなかった。
どこか怒気を含んだような目をしていた。
このあと何を言われるのだろうか。
不安で仕方なかった。
愛想の悪い客を捌くこと以上に、彼女から何を言われるのかが怖くなったため、心の準備として1時間設けさせてもらった。
1時間後、彼女は約束通りきっちり現れた。
「お時間いただきまして、ありがとうございます」
「いえ、・・・それで・・・」
怯えているのを隠しながら、彼女の要件を伺う。
「あの・・・先日は、本当にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
それで、あの時、トイレのごみ箱に汚れた下着を捨ててしまってたんですけど、
・・・あれから、自分の下着がどうなっちゃったか気になってしまって・・・。
不安で、その後のことを聞きたくて、お邪魔してしまいました」
彼女の話は予想外のことだった。
でも、彼女の立場になれば理解できる。
自分がしでかした大失態。
その証拠を残したまま現場を離れている。
もし証拠が世に出てしまえば・・・・。
そう不安になるのは仕方のないことだろう。
「そうだったんだね。
・・・・捨てちゃってるね・・・。
まずかったかな?
ゴミ箱は毎日、開店前と休憩時間、閉店後の3回必ず確認して、何か1つでもゴミが捨てられてたら処分するようにしているから。
もちろん、中身は見ないようにしているよ。
だから、あの時のごみが下着だったというのも、今初めて知ったし、君が来たのは開店前の時間だったから、誰にも見られていないけど・・・」
強張っていた彼女の表情が少し緩む。
どうやら、下着を取り返しに来たわけではなかったらしい。
「・・・安心しました。
本当に・・・あの後、後悔して・・・
怖くて・・・すっごく不安でした。
あの後、大切なお客様とのお仕事もドタキャンしてしまって・・・・・
本当に、いろんな人に迷惑をかけて・・」
彼女が言葉に詰まる。
僕の頭に、あの日初老の男性と交わした会話が呼び起こされた。
「・・・失礼ですが、学生さんですか?」
「いえ、普段はコンサルタントの仕事をしてます」
やっぱりだ。
あのとき初老の男性と会う予定だったコンサルタントは彼女だ。
“若いけどやり手で・・・・”
あの男性の言葉が頭のなかではっきりと思い起こされた。
「先日のことは気になさらないでください。あの件がなんにも影響がないとは言えませんが、新しい何かにつながる可能性もあります」
「新しい何か?」
「正直、うちの店は経営状況が芳しくないところです。もし、あなたが嫌でなければ、知恵をお借りしたいんです。自宅でもあるこの店舗を、手放すわけにはいかないので」
僕は店の状況をゆっくり話し始めた。
彼女が手伝ってくれるなんてまだ言っていないのに、それでも僕はこのチャンスを逃してはならないと思い、伝えられるだけのことを彼女に伝えた。
ついさっきまで、畳むかどうか考えていたことが嘘のように、僕の気持ちはこの店を守ることでいっぱいになっていた。
休暇にも関わらず、彼女は僕の話を真剣に聞いてくれた。
そして数日後から、彼女と本格的なお仕事が始まった。
あの初老の男性が言っていた通り、彼女はやり手だった。彼女のテコ入れにより、徐々にだが、経営状態が回復していく。
彼女が一番最初に指摘してくれたのは、僕自身のことだった。
“たとえ独り言でも、大切なお客さまのことを「片付ける」とか「捌く」とか言わない”
そうだ。
いつしか僕は、お客様を大切にすることを見失い、仕事をこなすことばかり考えていた。
多くの人に、僕の料理を楽しんでもらいたい。
親が築き上げたこの店を、この味を多くのお客さんに届けたい。
その初心を失っていた。
“客のために”
そう考えると、店舗設備、導線、サービス・・・あらゆる点を、お客様目線で見直すことができた。
彼女は僕が提案したことも、すべてお客様目線としての考えであれば真剣に相談に乗ってくれた。
少しずつだが、店に活気が戻る。
日々の仕込みの量も増えるが、まったく苦にならなかった。
「・・・・・あの・・・・」
とある日の昼営業後、片づけが終わったタイミングで店の扉が開いた。
ピンクのランドセルと黄色い帽子。
ボーダーのポロシャツとひざ丈くらいの黒のズボン。
見た感じ、5年生くらいの女の子だ。
「はーい」
以前はカウンター越しにその場から会話をしていたが、僕は急いでその人のもとに足を運ぶようになっていた。
少ししゃがんで、女の子に目線を合わす。
「あの・・あの、あ・・あ・・・あっ!?」
女の子の下半身から水が流れてくる音が聞こえてきた。
少女は膝をがくがくとさせながら、頬に涙が伝っていた。
この店は駅や公園といった施設から少し距離がある。
そんな周囲の環境もあることだろう。
僕がこのお店に努めるようになって、7年が経過した。
この7年間、毎年欠かさずに誰かしらがこの店を訪ねてはおしっこを漏らしている。
それはおもらしをして当然という年頃の子ではない。
小学生の高学年から20代くらいの女性ばかりが、この店でおしっこを漏らすのだ。
子ども会で班長をしていた中学生の女の子が店の入り口に飛び込みざまに漏らした時は、小学校低学年や、幼稚園生くらいの子に指をさされながら、「お~もらし、おーもらし」と大合唱を受けていた。
心が痛んだが、そのように、決して失敗してはいけない年頃の子ばかりがこの店ではおもらしをしてしまうのだ。
僕の秘密の宝箱には、もう20枚以上のおもらしパンツが保管されている。
一番若い子は小学6年生だった子。一番年長者は隣町で会社を経営する30代半ばの女性だ。近くにあるコンビニはトイレの貸し出しを一切受け付けていない。
そのため、流れ着いたおしがまの客がそのままおもらしをしてしまうことが後を絶たない当店。
だが、実はその何倍もの人数のおもらしの危機を救っている店でもある。
うちの店がつぶれてしまえば、コンビニがトイレを貸すようになるだろうか?
そうとは思えない。
女性がおもらしをしてしまわないために。
そして、もしおもらしをしても僕ひとりで隠し通すために。
この店はつぶしてはならない。
あの日おもらしをしたコンサルタントの女性も同じ意見を持って、僕の経営を今でも助けてくれている。
この店を守り抜く。
それが多くの人のために僕が貢献できることだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おもらしが見たい方はこちら
パンチラが見たい方はこちら
ジャンスカミニポニテ
【HD】靴@逆さ撮り編24【安価】


コメント