ひとつのことを思い出すと、数珠つなぎのように関連することを思い出すときがある。
まさみちゃんを思い出した私は、小学生時代のさまざまなことを思い出していた。
学校行事があるときは授業がなくて嬉しかった。
先生の判断で、急遽授業がドッジボール大会になったこともあった。
鬼ごっこで走り回ったいつぞやの日には、走り回って思いっきり頭をぶつけた。
頭をぶつけたアレは、たしか百葉箱という名前だったっけ。
「飛び込んではダメ」という先生の指示を無視して飛び込んだプールは、
思っていたよりも浅くて、プールの底にぶつけた足の指は爪が剝がれたなぁ。。。
けがをしたものの、今となっては懐かしい思い出だ。
竹馬や一輪車が苦手だったっけ?
バランス系のスポーツは中学・高校時代もさっぱりだったな。。。
ふと、器械体操のことが記憶によみがえる。
小学2年生のことだ。
体操が得意な友達には側転ができる子もいたが、私には無縁のものだった。何度かチャレンジしてみようとしても恐怖心に打ち勝てない。おそらく傍目から見る私の側転はカエルのような体勢だったのだろう。
そういえば、ひと際負けず嫌いな女の子がいた。
しほという子だ。
普段から活発で、鬼ごっこやドッジボール、鉄棒などなんでも張り切って取り組んでいた。彼女よりも上手に逆上がりができる子がいてもそのことを認めない。自分が鬼のまま休み時間が終わったときは、「私は○○分しか鬼じゃなかったから勝ち」なんてことも言っていた。
そんな活発で、負けず嫌いのしほは、私の姉が所属するバレーボールクラブに所属していたため、そのことがきっかけで話しをするようになり、休み時間にはよく一緒に遊んでいた。
でも、実は正直なところ、私はしほのことが苦手だった。
当時の私は外で遊ぶのは好きだったが、気の弱いビビりで泣き虫だった。
争いごとは好まず、友達と喧嘩したこともない。
負けを認めずに喧嘩に発展することが常態化していたしほのことは苦手だった。
だが、しほは努力家でもあった。ドッジボールで負ければ早いボールを投げる練習をし、
かけっこで負ければ走っていた。私もよく付き合わされていた。
ある日の体育の時間。男子の中でひと際おとなしい子がいた。普段からあまり友達を持たない彼だったが、何度か話をしたことがあり、体操を習っていると聞いたことがあった。
そんな彼がこの日、クラスのスターとなった。彼だけが壁も補助もなく、自立して逆立ちができていたからだ。彼が体操を習っていることを知らない子たちはびっくりしていたが、しほは違った。しほは私と同じで、逆立ちの恐怖心に負けていた。
日ごろ自分よりも全く目立たない子にできることが、自分にはできなかったこと。
転倒したときの恐怖心に負けたこと。
しほだけは彼に対抗心を燃やしていた。
その日の昼休み。私はしほに手を引っ張られ、体育館の隅に連れてこられた。
「一緒に逆立ち練習するから」とのことだ。
逆立ちができない子はほかに何人かいる。その中でも私は逆立ちなんて別にできなくても良いと思っていたが、苦手なしほに強い語気で手を引っ張られては畏怖して拒むことができない。言われるがままに付いて行ったのだった。
そしてしほは体育館の隅につくなり、壁に向かってすぐに逆立ち練習を始めた。
今日の体育の時間に行った練習だ。
壁にむかって行う逆立ちならば、今日の体育の時間にも何度か成功していた。
だが、体育の時間とは大きく違うところがある。
今、しほは体操服ではない。
私が通っていた小学校は男子は短パン、女子はスカートで指定の制服があった。
その制服姿のまま、しほは逆立ちをはじめた。
これが何を意味するのか。
そう、逆立ちをしたしほのスカートはすべて地面の方に垂れ下がり、逆立ちをしたしほの下半身はすべてが露わになった。日ごろから一緒に過ごす時間が長かった私は、これまでにも何度もしほのパンツを見ていた。一緒に遊ぶその横で、しほのスカート内をチラチラと見ていた。
だが、今日は違う。私のほんの1メートルほど目の前には、
小さなさくらんぼがいくつも散らばった、白地の三角形がある。
女の子のパンツを意識するようになって、これほど見えた総面積が広いパンツはなかった。
その姿勢のまま2~3秒がたち、しほは逆立ちの姿勢のまま
「パンツ見んな!!パンツ、見んな!!!」
と私に怒鳴ってきた。
体育館には他の生徒もいた。
私はとっさにしほとは違う方向へ視線を向ける。
「スカート姿で逆立ちしたのはお前だろ」
「俺は逆立ちしろなんて言ってないぞ」
「なんで俺が悪いみたいになってんだ」
と内心怒りにも似た感情を覚える。数秒経って私はしほの方を振り返る。しほはまだ逆立ちをしていた。
「見んなって言ってるだろ!」
また怒られる。
私は腹が立ち、しほから離れて教室へ戻った。
その後、しほとどのように仲直りしたかは覚えていない。
もしかすると仲直りはしていないのかも知れない。
ただ、わかったことがあった。
しほは小学2年生にして
「パンツは見えてはいけないもの」
であることを認識していたのだ。
逆立ち事件以前からしほのパンツは何度も見えていたが、
しほは「見えてはいけないもの」とちゃんと認識していたにも関わらず、
パンツを披露してしまっていた。
そしてもう一つ。
しほがそのような認識を持っていると考えることで、
私はしほに対して唯一と言っても良い優越感を覚えていた。
日ごろから強気で、男の子相手でも喧嘩をする。
認めたくない相手もいる。
時にはズルもする。
私は常にそんなしほの言いなりだった。
そんなしほが認識する
「決して見えてはいけないもの」を俺は見てやった。
お前が隠したいものを俺は知っている。
真っ白で、ふちがゴムになっているパンツも。
やわらかそうな素材のピンクも。
あのさくらんぼも。
お前の知られたくないものを、俺はいくつも知っている。
しほに対するこの優越感は、強い刺激となって、
性癖の土台を歪ませていった。


コメント