悪ノリ

パンチラ(単発)小説

休み時間空けの保健室。
京香は自分の所属する2年2組の教室を離れ、保健室のベッドに横たわっていた。
体調が悪いわけではない。
ただただ、教室に居たくなかった。

クラスメイトのことが嫌いというわけでもない。むしろ、いい人たちばかりで大好きなクラスメイトだ。

でも・・・見られちゃった。

なんで自分がこんな目に。

私がなにかした?

何度自問自答しても、自分に責任があるとは考えられない。募るイライラを無理やり抑え込むように、京香は布団に潜り込んだ。

2年2組の教室。体積を求める立体図が展開されていく教室の中で、明美は15分前に為した自らの行動を後悔していた。
自分があんなことしなければ。
自分の性格がお調子者じゃなければ。
一番後悔していたのは明美だった。
明美同様に優香も里美も後悔していた。
だが、明美も優香も里美も、彼女たちだって被害者でもある。それでも自分の被害以上に明美への加害を悔やんでしまう。自分の受けた被害はもうどうでもよくなっている。
今はただ、京香が戻って来れるか心配でならなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「見れた?マジかよ~。
 俺、見逃したんだよ~」

放課後。サッカー部員たちが集う部室で練習着に着替える選手たち。2年2組に在籍する部員たちは、見れたか見れなかったかの会話で盛り上がる。

“俺は優香みたよ”
“明美のはよかった”

口々にみんなが発言していく。だが、そのなかに京香の名前は出てこない。目撃者がいないということはないだろう。だが、あまりにも衝撃が大きすぎたのと、その後京香が教室から消え、終礼の時間まで戻ってこなかったことから、暗黙的に話題にはされていなかった。
その部室の隅っこで、浩二は一言も発することなく部員たちの会話を聞いていた。

“本当にサッカー部かよ”

これまでに何度もこの言葉を言われてきた。
陽キャが集まる部活であり、学校行事の際にも中心となる他のサッカー部員たちとは全く違う雰囲気。簡単に言えば陰キャだ。サッカー部員でありながら、他の部員たちと会話することはほとんどない。
浩二は静かに、ひっそりとこの日のことを思い出していた。

2限目を終えて迎えた休み時間のことだった。
クラスの女子たちが一斉に席を立つ。
そして、始まる。

最近、うちのクラスの女子の間では、スカートめくりが流行っている。
ここに男子が加われば教員も黙っていはいないのだろうが、女子どおしの悪戯的な悪ノリだから、それを制するようなこともない。
発端はクラスイチの陽キャの茜音だった。
茜音が仲の良い子のスカートをめくったとき、めくられた女子の慌てるリアクションが女子の間でツボに入ったのだろう。
その日からは、ことあるごとに、また、油断しきっている女子に対してスカートめくり合戦がなされるようになった。
無論、女子たちは基本的にはスパッツやハーパンを履いている。スカートをめくられても、重要な部分が見えてしまうことはない。
それなのに、めくられた子はキャーキャーと悲鳴を上げてその場は盛り上がる。
盛り上がりとハーパンを履いているという安心感。それらが重なって悪ノリは横行してしまうのだろう。
時折、“こっち見るなよ~”と、チラ見する男子をニヤニヤしながら揶揄う女子もいた。

今日、ターゲットになったのが明美・優香・美里そして京香の4人だった。陰キャというわけではないが比較的大人しめな4人グループは、これまでこの手のことに加わっていなかった。
約1週間続いたスカートめくりは少し面白味を欠いていたようで、これまで加わってない4人をターゲットにしようと、マンネリ化を打破するために茜音が仲の良い女子たちと画策していた。
教室の中でも誰とも会話をしない浩二の耳に、茜音たちの会話は届いていた。

最初にターゲットになったのは優香だった。
休み時間になって早々、教室の一片に集まった優香たち4名。その背後にこっそりと近づいた茜音が勢いよく優香のスカートをめくりあげた。その中身がハーパンやスパッツだとわかっていても目が行ってしまうのは男の悲しい性だろう。浩二だって中学生男子だ。多感な時期には避けようのないいたずらだ。
先ほど述べたが、女子たちは“基本的に”スパッツやハーパンを履いている。だが、例外だって存在する。

茜音の手によってまくりあげられたスカートは、優香の穿くライトグリーンと白のボーダー綿パンをフルバックで全面披露することになった。
慌てて背中からお尻に手を回してスカートを押さえる優香。
突然のハプニングに驚き、笑っているものの、顔は少し赤らんでいるようにも見える。
4人の中で比較的優香はノリの良い女の子だ。だからこそ最初に狙われたのだろう。

優香のスカートをめくった茜音が、すかさず美里のスカートを狙う。恥ずかしがりながらも笑ってしまっている優香は茜音と同じ行動を明美に向けた。

順にめくりあげられた美里と明美のスカート。

彼女たちもまた、優香同様に例外的な存在だった。

一瞬のことだったが、美里のスカートからはグレーの綿が見え、明美のスカートからは白い綿が見えた。

これが茜音のみの行為だったならば、彼女たちにとっては犯行だったかもしれない。
だが、同じ時を過ごすことの多い仲間である優香も加わっていることによって“犯行”は“戯れ”に変換されていた。

美里も明美も恥ずかしそうだが、笑っている。
こうなると、京香が狙われるのは必然だった。
茜音がここぞとばかり京香のスカートを狙う。
めくられたスカート。
ひざの少し上に紺色の布が見えた。

「履いてる。履いてるから」

そう言いながらスカートを押さえて京香は茜音の行為を制する。

何度も述べたが、“基本的”に女の子たちはパンチラしないためにスカートの下には何かしら履いている。優香・美里・明美の方が例外だ。
だが、彼女たちのグループ内に限って言えばパンチラガードを履いている京香の方が例外になってしまう。
自分たちはスカートをめくられた。
男子にもパンツを見られちゃったかも知れない。
京香だけ見られないの?

仲間意識は悪い方に作用した。

「せーの!」

「いちっ!」

「にっ!」

「さーーーんっ!!」

最初の“いち”で美里が京香の背後から抱き着き、京香の両腕ごとがっしりと抱き込む。京香の上半身の抵抗を無効化した。

次の“2”で優香が京香のスカートをめくり、その裾を高い地点で固定した。さきほど一瞬見えた紺色の体操服のハーパンがしっかりとそのものを露わにする。

そして、最後の“さーーーん”で、美里がハーパンをずり下げた。

これで京香のパンツが一瞬見えてしまい、みんなで照れ笑いして終了。打ち合わせていないが、彼女たちの頭の中ではその予定だったはずだ。

だが、現実は違った。

京香のふくらはぎ付近の高さまでハーパンをずり下げたとき、注目していた視線の高さに京香の下着は存在しなかった。

予想してたよりも遥かに下。

ひざよりも5センチほど高い位置に、中2女子らしからぬ光沢のあるピンクが浮かんでいる。

そのピンクのパンツはフロント部分だけが白い布になっていて、その白い部分にのみ黒の水玉がいくつか散りばめられている。

そして、本来はそのピンク&白地水玉のパンツが存在していたであろう位置はノーガードとなっており、思春期真っただ中の女子中学生が決して誰にも見せたくない、黒くて細い無数の糸が全貌を露わにしていた。

休み時間になされた戯れだ。クラス内ではそれぞれがグループを作って教室のいたるところでおしゃべりをしている。その時にどこにいたかによって見える景色と見えない景色があった。
優香のボーダーだけが見えた人もいれば、三郷のグレーだけが見えた人もいるだろう。

浩二の座る席からは、

優香のライトグリーン&白のボーダーパンツも、

美里のグレーパンツも

明美の白パンツも

そして、

京香の大人パンツ&下半身も

すべてばっちりと見えてしまっていた。

時間にしてほんの1~2秒だろう。
だが、その場にいた女子たちは、固まってしまった。

そのため、1~2秒の間、京香の下半身が露出されたことを多くのクラスメイトに知られてしまった。

中学生らしくない光沢のある大人が穿くような下着は、フロントという部分的に可愛らしさを含んでいる。
そんなパンツを愛用していることを知られてしまった。

普段の見た目や雰囲気とは真逆の、意外に濃くなっている糸たちも知られてしまった。

我に返った彼女たちは、大慌てで京香を囲み、脱がしてしまったものを復元する。

意外にも京香本人は冷静な様子に見えた。

だが、

「やっていいことと悪いことがあるよね」

静かな声でつぶやいた京香が教室から出ていくと、それ以降教室内はお通夜モードと化していた。
それっきり、京香は教室に戻ってこない。
お通夜モードは終礼の時間まで続いた。

浩二が部活を終えて校門をでると、数十メートル先の交差点に4人組の姿を確認した。
信号待ちをするその姿に追いついてしまったが、聞こえてくる会話からすれば、どうやら4人は和解できているようだ。
あんまり近づきすぎても悪いなと思った浩二は、道中のコンビニで立ち読みをしてから帰宅することにした。
適当に手に取った漫画雑誌に目を通し、家路についた浩二。
自宅玄関の門の前で、ひとりの女子生徒が立っていた。

「・・・・大丈夫?」

キャラにマッチした小さい声をかけた浩二。

「うん。恥ずかしいけど・・・
 すんごい謝ってくれたからさ」

その喋り方が、浩二には少し気丈に振る舞っているようにも見えた。

「茜音さんも謝ったの?」

「うん。茜音ちゃんは次の休み時間に保健室に来てくれたよ。何回も“ほんとにごめん、私が何もしてなかったら・・・”ってさ」

「そうか。
 明日は・・・学校に行けそうか?」

「わかんない・・・。
 恥ずかしいのは変わらないから」

浩二はなんと言葉をかけていいかわからなくなる。

「だってさ、見られちゃったんだもん。
 ・・・・浩二以外の人たちにもさ。」

幼少期から多くの時を共に過ごしてきたふたり。
お互いに大人しい性格のために言葉にはしてこなかったが、両想いであることはお互いに認知している。
ふたりで一緒に居る時、やっていることは立派なカップルだった。

「だからさ・・・いっぱい慰めてくれる?」

「もちろん・・・」

浩二の家は共働き。

両親ともに帰りはかなり遅い。

浩二の家に入ったふたりは、いつものように一緒に浴室に向かった。

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