全治2か月
入院期間は術後の経過観察を終える数日で済むとのことらしいが、その後もしばらくは動き回れないというのはつらい。
うかつだった。
大会直前の練習だったにもかかわらず、着地に失敗して他の選手の足首を踏んでしまった。
最初は捻っただけだと思っていたが、まさか骨折してるとは思っていなかった。
当然だが、レギュラーははく奪された。
“みんなに見せるのは練習。誰にも見せないものが努力”
と父に説かれ、この数か月間は自分でも努力を重ねてきたと思う。
その結果、“お試し”ではあると思うがレギュラーメンバーとして練習に参加させてもらえていた。
なのに・・・。
だが、いつまでもネガティブになっていてもどうにもならない。自分で何とか出来ることもあれば、そうでないこともある。治療に専念する今は、自分ではどうにもできないことの方が多い。どうせ過ごすのならば、少しでも入院生活を楽しんだ方がいいに決まっている。
「体調はどうですか?」
ちょうど看護師さんが様子を見に来てくれた。
二重瞼で八重歯がチャームポイントな滝本さんと言う方が僕の担当になってくれている。
看護師になって2年目という若い女性だが、とても気さくに話しかけてくれる。
骨折の経過観察のため、何かチューブなどがついているわけではない。
僕は問題なければ数日でいなくなるわけだが、滝本さんは明るく話しかけてくれる。
「あ、ゴミ出てますね。捨てておきますね」
滝本さんがしゃがみ込んだ。
これがもう10年前の病院だったら、看護師さんたちのナースの服もスカート姿で、滝本さんのパンチラが見れたかもしれない。
だが、時代に合った経営をしているこの病院では、ズボンにポロシャツスタイルのようなものを看護師さんたちは着用している。
少し残念には思うが、こうやってコミュニケーションをとってもらえるだけでも幸せな時間だった。
「小野くんは結構試合に出るの?」
バスケ部に所属してるということだけは簡単に話をしていたが、滝本さんがそのことを端緒に話しかけてくれるようになった。
「いえ、実は次の大会でやっと試合に出れそうかなってところだったんですけど、
けがをしてしまったから・・・・」
「そうか・・・。でも、手術はばっちりだったからね。また頑張ってね。応援してるからね」
そう言って向けてくれた滝本さんの笑顔は、とても輝いている。
一目惚れと言うと大げさかもしれないが、僕は滝本さんに恋をしているかも知れない。
滝本さんは、ふだんはどんな私服を着たりするのかな・・・
清楚な彼女だから、ロングのワンピースとか似合いそうだな・・・・
そんなことを妄想していた。
数日後に退院し、リハビリのために定期的に病院を訪ねる。
そんな僕の姿を見かけては、そのたびに滝本さんは話しかけてくれた。
絶対にレギュラーに戻って、
「最後の大会、見に来てください」と伝えるんだ。
そのためにも頑張るぞ。
中学最後の大会まで1ヶ月を切った。
退屈なリハビリの時間も、滝本さんにカッコいい姿を見せたい一心で乗り越えていた。
リハビリを終えた僕は、自宅から少し離れた公園にいた。
ここが僕の“努力”の場所だ。
人の目につきにくい公園でトレーニングを積む。
遅れを挽回するのに必死だった。
よし。
今日はこれくらいにしておくか。
体の調子がよく、考えていた以上のメニューをこなした。
準備していた水はとっくに飲み干していたため、帰り道にあるコンビニに立ち寄った。
「まじ~?それウザ過ぎじゃない?」
コンビニの入り口から5メートルほど離れたところ。
そこには円柱型の灰皿が設置されている。
その灰皿のすぐ隣に、とてもタイトな衣類に身を包んだ女性が大声で電話をしながら煙草を吸っていた。
よっぽど自分のスタイルに自信があるのか、体のラインが丸わかりになるほどのピタッとした服。
動画配信ライブなどを見てる時にキャバ嬢と言われる人たちが来てそうな服装だった。
タイトなスカートはとても短く、男を誘っているかのようだった。
だが、残念ながら僕はギャルが苦手だ。
そんな服を着ていても何の魅力も感じない。
変に目が合ってイチャモン付けられても・・・
ビビりな気持ちもあり、その女性から遠回りするように店の入り口に向かう。
ちらっと一瞬だが、彼女の方を見た。
大きく口を開けて馬鹿みたいに笑う。
だが、その前歯の横にはアクセントとなる八重歯があった。
店内に入った僕は、動揺していた。
ぱっちりとした目。そしてあの八重歯。
あれって、滝本さんじゃないか。
商品を選ぶフリをしながら、外で煙草を吸う女性に目を向ける。
絶対そうだよな・・・・
でも、人違いかも・・・・
病院でお世話をしてくれた彼女とは雰囲気が違いすぎる。
だが、あの顔立ちは、まぎれもなく滝本さんだ。
スポーツドリンクを持ってレジに向かう。
支払いを終えて店を出ようとしたとき、外に女性の影はなかった。
帰っちゃったのかな。
ほっとしたような、残念なような・・・・
複雑な心境だった。
だが、店を出ると女性はまだいた。
灰皿のとなりにしゃがんで、スマホを操作している。
女性の視線はスマホに注がれていて、まるで僕の存在には気づいていないようだ。
注意散漫な様子のまま、タイトミニスカートでしゃがみ込む女性は、
大きく膝を開いていたため大事な布が丸見えだった。
ゴールドで光沢のある生地は無地ではなく、ギャルにお似合いのゼブラ柄。
とても派手なパンツが丸見えのまま、僕の動きに気づかなかった女性は
1分近く手元のスマホに全神経を向けているようだった。
ちょうど1週間後、僕は病院の近くにいた。
もう少し待てば・・・・
病院の裏口から、私服姿の女性が数名出てきた。
その中には体にピタッと張り付くような服を着た、ミニスカート姿の女性もいる。
その女性と目が合った。
「小野く~ん、ひさしぶり。どうしたの?」
「たまたま近くに来てたので、いらっしゃるかなって思って」
「そっか。あれから足は大丈夫?」
「はい。いまはレギュラー奪取に向けて必死に動いてます」
「頑張ってね」
病室で見せてくれたときと同じ笑顔で応援してくれたギャルに、僕は「試合を見に来てくれ」とは言わなかった。
風呂から上がった僕は、自室のベッドに倒れ込み、枕のしたから2枚の写真を取り出す。
1枚は、退院の日に2ショットで写っている可愛い看護師の滝本さん。
もう1枚は
セクシーな服を着て、ゼブラ柄のパンツを丸出しとした滝本さん。
スマホで撮影した写真は現像され、その時間だけを切り取っている。
2枚を並べて見ながら、その夜を過ごした。
滝本さんとの交流は写真だけとなった。
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