悲劇は繰り返す

おもらし小説

敦子は自分自身に呆れていた。
かっこ悪くて、情けなくて、自分のほかにこんな人間はいないと絶望した。

敦子が通っている中学校では、2年生になると近所の保育園を訪問し、園児と戯れるという行事がある。
なんの狙いがあってこのような活動を取り入れているのかはわからないが、小さくて可愛いこどもたちと戯れるのは癒しにもなり、とても楽しい時間だった。

4日前の月曜日。
この日が保育園実習の時間だった。
だが、そこで敦子は大きな失敗をしてしまった。
2限目終業時の休み時間に体操服に着替えて保育園に出発したが、体操服を持ってくるのを忘れてしまった敦子は、隣りのクラスにいる幼馴染で名字も同じ、田中 雄輔に体操服を借りていた。

そこで時間を費やしてしまった。

保育園で見る子どもたちはとても可愛く、敦子にもよく懐いてくれていた。だが、途中から敦子は子どもたちどころではなくなっていた。
子どもと遊んでいる時間とはいえ、休み時間ではない。子どもを前にしてその場を離れるような行動はとりにくい。
いよいよまずいというタイミングで、近くにいた保育士さんに告げて案内してもらったが、目の前まできたところで力尽きてしまった。

パンツの中が一気に温かくなる。

同時に体操服の短パンの両裾から滝が流れていく。

瞬時に床からもバチャバチャと大きな音が響き、流れ出た水は自分を中心に大きな水たまりをつくっていく。

「わたし・・・・わたし・・・」

頭が真っ白になってしまい、自分では何もできなかった。

水たまりの中心で敦子は呆然と立ったまま。

同級生こそ周囲にはいなかったが保育士さんは慌ててたし、何人かの園児にも見られてしまった。

中学生なのに・・・・敦子は保育園でおもらしをしてしまった。

保育士さんから聞きつけて、担任の先生がやってきた。保健委員の女子生徒も一緒にやってきた。

先生や同級生におもらししたことを知られるのは苦しいことだった。だが、何よりも、自分よりも10歳も年下の小さな子どもたちに、“おもらし”という子どものような失敗を見られてしまったショックが大きい。

「おにいさん、おねえさん、ありがとう、ございました」

園児たちの明るく大きなお別れの挨拶を背に、生徒たちは保育園を後にする。

「これからはちゃんとおトイレに行かなきゃだよ」

自分の隣りにいた5歳児がボソッと言った最後の言葉は、敦子の心に深く突き刺さった。

中学校に戻ると、敦子は保健室に直行した。

まさか“○○中学”と書かれた下着に足を通すことになるとは思ってもみなかった。幸い、保健委員の女の子も担任の先生も、クラスメイト達にはバレないように対処してくれた。

濡れた体操服について他の子たちには
“抱きかかれてた子どもがおもらししちゃって・・・”
と説明してくれていた。

雄輔も、子どもが汚したのならしょうがないと納得してくれて、洗濯を済ませた翌日に体操服は返却した。
なんとか自分の学校生活が崩壊しないで済んだ。

はずなのに。。。

保育園でのおもらし事件は、敦子にとって二度と思い出したくない黒歴史だ。だが、その黒歴史は2日後に簡単に塗り替えられた。

水曜日の放課後のことだった。
敦子は家までの道のりを大急ぎで歩みを進めていた。
帰宅したらトイレに行こう。

そう思っていた敦子だが、帰路で偶然居合わせた友人と話が盛り上がってしまい、いつもよりも30分も遅くなってしまった。

つい2日前に女子中学生としてあってはならない失敗をしたばかりだというのに、トイレに向かうタイミングをまたしても逸してしまった。

なんとか家までたどり着いた敦子。

カバンの中をごそごそと乱暴に手を動かすが、カギが見当たらない。

やばい・・・このままじゃ・・・

2日前の恥ずかしい失敗が、いやでも脳内で再現されていく。
だが、焦れば焦るほど、カバンの中でカギは敦子の手から逃げていくかのようだった。

やばい!

瞬間的に危険を察知した敦子は、扉の前にカバンを放り投げた。
玄関にある門の裏、道路からはちょうど死角となる場所に身をかがめてスカートをまくりあげた。

敦子ができたのはそこまでだった。

あとは自然に身を任せるだけだった。

脱ぐことのできなかったパンツとスパッツの中から、2日前と同じように温かい水があふれ出してくる。

予定では、門の裏の壁に打ち付けられるはずだった水流。
だが、現実にはその水は2枚の布に遮られて敦子のお尻の真下に垂れ流れていく。

この2枚の布を脱ぐことができていれば・・・・。

家の前ということで、誰にも見られていなかったのが唯一の救いだった。スカートもまくりあげていたから、汚していない。
汚れたのはパンツとスパッツ、そして靴底だけだ。

冷静にカバンからカギを取り出した敦子は、家の中に入るやすぐに汚れた衣類を脱ぎ、急いで洗濯をした。

わずか3日のうちに、二度もおもらしをしてしまった。だが、運の良いことに、この大失敗はほとんどの人に知られていない。

大丈夫。

失敗はした。
でも、私はこれまでどおりの中学生生活を過ごせる。
そして、今日という日を迎えたのだった。

底冷えする体育館。

みんなが寒さをしのぐために手や足をすり合わせる仕草をするなか、敦子は似て非なる仕草をしていた。

なんで・・・・ちゃんとトイレに行ったのに。

この冬一番という寒波は、冷えきった全身に温かい血液を流し込むために、その量を増やしていた。それに伴って形成された尿は、小柄な敦子の身体にあっという間に溜まっていき、2時間前に済ませた排泄を無意味化させる。

そして・・・・その時が来てしまった。

進行役の先生から起立という号令がかけられた。

号令に従い、生徒たちが床から立ち上がる。

敦子も周りの生徒同様に立ち上がろうとした。

でも、敦子は中腰の体勢まで体を上げたところで、固まってしまった。

この音

この温もり

わずか5日間の間で、もう3回目だ。

でも、過去2回とは違う。

月曜日は保育士さんなどの一部の人にしか知られなかった。

一昨日は誰にも知られずに済んだ。

でも、いまは全校集会の真っただ中だ。

「え!?」

「まじ!?」

「あっちゃん?」

「田中が?」

「おもらし?」

「中学生なのに???」

ひとつひとつの言葉はすべて小さい声だ。

だが、そんな言葉があらゆる方向から聞こえてくる。

敦子は顔を上げることができなかった。

とうとう・・・・とうとうやってしまった。

これまでは隠すことができたおもらし。

だが、今日ばかりはそれはできない。

2度あることは3度あるとはよく言ったものだ。

3度目の正直とはよく言ったものだ。

とうとう全校生徒に知れてしまった。

おもらし中学生がいるということが。

一度は暖かくなった布がゆっくりと冷めていくのと同時に、誰かに手を引かれた。

敦子は気がつけば保健室のベッドの上にいた。

ショックのあまりに気づいていなかったが、敦子はすでに下着の取り換えも終えていた。自分でやったのか、それとも保健室の先生がしてくれたのかすら覚えていない。

ただ、わかることは、自分が全校生徒のいる中でおしっこを漏らしてしまったということ。

そして、今週二度目の“保健室パンツ”を穿いているといこと。

おわったな。わたしの中学生活。

これまで楽しかったのにな。

これから・・・・どうしようかな。

敦子は自分自身に呆れていた。

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