人口が1万人にも満たない小さな町。
この日行われるのは年に一度の祭りだった。
祭りとはいえ、焼きそばや綿あめといった屋台が出店され、特設ステージでいくつかの団体がショーを披露するくらいの小ぢんまりとしたものだった。
はぁ。
こんなしょぼい町のしょぼい祭り、なんで行かなきゃいけないんだろう。
父親が実行員をしている都合で、僕は祭りの様子を収めるカメラマンを無理やり任されてしまった。
小学生の頃は毎日でも開催して欲しいお祭りだったが、中2にもなってこんなショボい祭りに参加するような奴はいない。
試しにクラスの友人数名に聞いてみたが、参加予定どころか屋台に足を運んでみようとするような人も居なかった。
まぁ、誰も来ないのなら自分の姿を見られないからいいんだけど。
お祭りは始まる前からそれなりの盛り上がりを見せていた。屋台には何本かの行列ができている。
この広場にいるのは圧倒的に家族連れや小学生の集団が多かった。僕のような中学生は今のところ見当たらなかった。
乗り気ではなかったが、いざ現場に足を踏み込んで見れば焼きそばの香ばしいソースの匂いや綿あめやりんご飴の甘い匂いが僕の鼻腔をついて誘惑してくる。せっかく来たのだから、何か食べたいのだが・・・・。ステージの開園時間が迫っている。
仕方ない。
仕事だと割り切ってカメラマン業をやるしかない。全て終了してからのんびりと腹を満たすか。
ステージと観覧席の間には簡易的なバリケードがある。“実行委員”と書かれた腕章をつけてバリケードを挟んでステージ側に入り、ビデオカメラを構える。
前半は小学生の部。
トップバッターは少年野球団と少年サッカー団の「どっちが強いか 3番勝負」だった。
確かに、野球もサッカーも祭りのステージ上でやるようなことはない。一生懸命子どもたちが考えた結果、どっちが強いか競うというものになったのだろう。
少年たちの戦いは思いのほか白熱した。
最初の腕相撲は野球団が圧勝したが、2戦目のビーチフラッグではサッカー部が瞬発力を見せつけた。
最終決戦となった綱引き対決はどちらも一歩も譲らない、一進一退の攻防戦となった。
最終的にはスタミナの切れた野球団をサッカー団が強く引きずり、会場は大盛り上がりとなった。トップバッターは彼らで大正解だったな。
次は・・・ダンスサークルのグループか。
彼らにも驚かされた。小学生なのに、こんなに激しく動けるものなのか。それに、一糸乱れぬ統制のとれたフォーメーション。
自分の語彙力のなさにあきれるが、凄い以外の言葉で表現できなかった。
こんなにも子どもたちはできるものなのか。
2組のパフォーマンスを終えて、会場は大盛り上がりだった。
僕は自分よりも年下の子どもたちが見せるパワフルなパフォーマンスに圧倒されていた。
大丈夫かな・・・・
パフォーマンスについ見入ってしまい、カメラマンとしての撮影が部分的におろそかになってないか心配になった。
おそらく手ブレが凄いことになっているシーンもあるはず。あとでお父さんに謝らなきゃいけないかもな。。。
最後は・・・少女たちによるマーチングバンドだ。
ステージ上でマーチングはできない。
彼女たちは観覧席の後方から演奏をスタートしてステージに登る予定だ。子どもたちのパフォーマンスに魅了されていた僕は、右手は運営から渡されたビデオカメラを、左手には動画撮影モードにした自分のスマホを準備する。
ただ業務として撮影するだけでは足りなかった。自分の思い出として、しっかり記録したい気持ちになっていた。
カメラの準備を終え、急いでバリケードの隙間を縫って観覧席後方に向かった。
僕のお父さんが子どもの頃から存続しているという伝統のあるマーチングバンド。だが、最近はK-POPブームなどの時代の流れからからだろうか。習い事にダンスを選ぶ子が多くなっているらしい。さきほどのダンスのステージは選抜メンバーとのことだったらしいが、それでも15名くらいがステージに上がっていた。
反面、伝統あるマーチングバンドに所属するメンバーは6年生2名、4年生2名、3年生1名、2年生2名、1年生1名の総勢8名という寂しいものになっていた。
6年生のキャプテンである紗代ちゃんという子を先頭に4年生・3年生・2年生・1年生の順で並び、最後尾には副キャプテンの真由ちゃんという子が並ぶ。
軸となる6年生で下級生をサンドし、また、スネアドラムを身につけた真由ちゃんを後ろに並ぶ下級生の近くにおいて全体のリズムを統制する。少ない人数ながら、彼女たちも工夫した隊列を整えていた。
さぁ、彼女たちの演奏が始まった。
僕は先頭の紗代ちゃんから順に後方にかけて追い抜かれていくように撮影していく。
彼女たちの演奏は下級生が多いからか不安定なところもある。だが、バランスが崩れてもすぐさま真由ちゃんが小気味良いドラムの音で整え、紗代ちゃんが大きな主旋律で引っ張っていく。このバンドは間違いなく紗代ちゃんと真由ちゃんのグループだ。彼女たちの活躍によって支えらえているし、彼女たちの魅せるこのパフォーマンスはきっと新しい部員を呼び込むことができるだろう。
また、彼女たちが身に着けている衣装もとても可愛い。チアリーダーのような明るい衣装。ひらひらとした白いミニスカートは少女たちをより可愛く見せてくれる。
僕の横を最後尾の真由ちゃんが追い抜いていく。小気味いいリズムに乗って爽やかな風が吹き抜けた。その風は断続的に少女たちの背中を後押ししてステージまで運んでくれる。
ステージに上がった少女たちは、各自の立ち位置につき、足踏みをしながら演奏を続ける。
スローテンポへと変化した曲は雄大な空気を醸し出す。
一度静かになった演奏は終盤に近づくにつれて音量を増し、壮大な曲に仕上がっていく。転調して一気に盛り上がっていくクライマックスは、観る客を飲み込んでいく。
演奏を終えると、少女たちには万感の拍手が送られた。拍手を送る人の中には、目に涙を浮かべる人も居る。
僕も同じで、彼女たちの演奏に心を奪われたひとりだ。
彼女たちの演奏で“子どもの部”は終了した。
30分の休憩を経て、次は“大人の部”が始まる。司会者のアナウンスを受けて、観覧客は動き始めた。子どもたちの演奏に感動して席から離れない人。屋台やトイレに向かう人。
それぞれがそれぞれの行動をとるが、僕のカメラが映し出す表情はどの人も笑顔だった。
カメラマンを面倒だと思っていた。
中学生なのにお祭りに参加するのは嫌だと思っていた。でも、この時には考えは180度変わっていた。
“今日、ここに来てよかった”
と、このお祭りを運営する大人に感謝し、そして、この場を盛り上げてくれた子どもたちにも感謝した。
特に、彼女からはとても大きな元気をもらっていた。
ビデオカメラと腕章を運営本部のテントに預け、余韻に浸りながらトイレに向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
“やった!うまくいった!
こんなに大きな拍手がもらえるなんて思ってなかった。
右端のおばあちゃんは泣いてるのかな?
下級生の子たちは少し失敗しちゃったところもあったけど、それでも演奏は大成功と言っていいと思う。
拍手が気持ちよかった。
同じクラスの子たちもみんなダンスを習ったり、歌を習ったりしてる。誘ってみた友達も、このバンドには入ってくれなかった。
でも、小さいときにこのお祭りで見たカッコいい姿を追いかけてきた。
諦めずに、妥協せずにやってきて良かった”
ステージから降りて控室に戻った真由は演奏の余韻に浸っていた。下級生の女の子たちは多くの拍手に興奮している子もいれば、出番を終えて早く屋台などに遊びに行きたがってる雰囲気の子もいる。真由は同級生でキャプテンを務める紗代とこの喜びを共有したかったが、その場に紗代の姿は見当たらなかった。
紗代が戻ってきたら、わたし、泣いちゃうかもな。
控室からの退出時間が迫ってきている。
もう少しこの場で余韻に浸りたいが、仕方がない。衣装から私服に着替えるためにカバンの口を広げる。
あれ?なんでここに?
真由はさっきまでの演奏を俯瞰的に思い出す。
うそ・・・?
え?
なんでここに?
うそでしょ?
真由の頭から演奏の余韻は吹き飛んだ。
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演奏を終えた紗代は、すぐに大人たちに囲まれた。
多くの人に感動を与えることができたことが、そのまま目の前のリアクションに結果として現れているのは素直に嬉しかった。キャプテンとして責任感の強い紗代は、丁寧にひとりひとりからかけてもらう声に応える。
真由や下級生の子たちは控室に戻ってしまったが、紗代はステージの横から離れられなくなってしまった。
運営委員からの簡単なインタビューを終えてひと段落したところで、紗代は控室とは逆の方に向かった。
紗代が辿り着いたその先には、6人が並ぶ小さな行列となっている。
列はゆっくり、ゆっくり進んでいく。
10分強並び、紗代はやっと自分の順番を迎えることができた。
自分の順番を迎えたが、ここで時間を使うわけにはいかなかった。
インタビューやお客さん対応で時間を費やしてしまった。
控室の退出時間がすぐそこまで迫っている。
急いで用を済ませた紗代は、そそくさと小走りで控室に向かっていた。
演奏中に吹いていた爽やかな風は、この時にも紗代の背中を押していた。
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トイレに小さな行列ができていた。
僕のふたつ前には、さっき見事な演奏を披露してくれたマーチングバンドの衣装を着た子がならんでいる。後姿だからはっきりと顔は見えないが、体格的におそらくキャプテンの紗代ちゃんという子だろう。キャプテンである彼女は演奏後にすぐに囲まれていた。やっと周りが落ち着いてきたのだろう。
だが・・・
彼女はなぜ着替えてないのか。衣装のままトイレに並ぶというのは注目を集めやすく、本人からすれば恥ずかしいことだろう。
その答えとして僕が結論付けられるのは、“相当に我慢をしていたから”ということになる。
緊張したんだろうな。
ゆっくりと進む列。
そもそもだが、なんで仮設トイレは1台しか準備されていないのか。僕はそんなに我慢しているわけではないが、次の“大人の部”の開始時間が近づいていたため、急いで用を足したかった。トイレの数については父親に言って、運営面で見直してもらわないといけないところだな。
列に並びながら手持ち無沙汰な状態がつづく。衝動を抑えられなかった僕は、さっき撮影していた自分のスマホの動画を再生した。
マーチングバンドの衣装をきた少女たち。
小気味いいスネアドラムの音とともに、少女たちが観覧席後方からステージへ前進していく。少女たちに追い越されていく僕は、彼女たちの真剣な笑顔をしっかりと捉えている。全員が僕を追い越し、最後尾の真由ちゃんの後姿を捉えたその時だった。
彼女たちをステージへと背中を押す風が、少女たちのスカートを揺らして、そのヒラヒラとした白いスカートの中身を露わにする。
真由ちゃんの1列前に並ぶ2年生と1年生の女の子は、ふたりとも紺色のブルマを履いていた。
だが、最後尾でドラムを鳴らす真由ちゃんのお尻に、紺色の布はなかった。
ブルマの代わりに見えるのは、グレーの綿の生地にデカデカと印刷されたスヌーピーの姿だった。
こんな舞台でスヌーピーが印刷されたブルマを履くなんてことはありえないだろう。
そもそも、ステージのすぐ下からも彼女たちを撮影したからわかるが、他の子はみんな紺のブルマを履いていたため、おそらくユニフォームのひとつなのだろう。
だが、真由ちゃんだけは、ステージで足踏みをしているときも、何度も何度もそのグレーのパンツをちらつかせている。
わかってる。
僕は中学生で、真由ちゃんは小学生だ。
小学生のパンツが見えたくらいで・・・・ダメなんだ。
そんなこと思っちゃいけない。
でも・・・
身体は正直だった。
真由ちゃんのスヌーピーパンツは、僕の下半身を固くしてしまった。
僕は真由ちゃんから演奏だけでなく、そのパンチラからも元気をもらってしまった。
動画の再生を終えるころには、列は少しだけ進んでいた。動画を一時停止しながら、ちらちらと紗代ちゃんの方も見ていたが、大きく変わった様子は見えない。だが、細かく見ればさっきから左右の足を何度も交差し、組み換えていることが伺える。やっぱり、けっこう我慢してるんだな。そんな中で、あれだけの演奏をしたんだから大したものだ。
ゆっくりと列は進み、紗代ちゃんはやっと自分の順番を迎えた。
男と比べて女の人はトイレの時間が若干長くなる印象だ。それは体の構造上、当然のことではある。
だが、紗代ちゃんはすぐに出てきた。
あれ?
我慢してたんじゃないの?
紗代ちゃんが出ると同時に、僕のひとつ前の人が仮設トイレに入る。
僕は紗代ちゃんの姿を眺めていた。
溜め込む量が多ければそれだけかかる時間も長くなると思っていたのだが、思っていたよりも早く出てきた紗代ちゃんは、小走りで控室の方に向かう。
走っていく紗代ちゃんのヒラヒラしたミニスカートが風に揺れて大きくめくれ上がった。
それに気づいた紗代ちゃんは、慌ててスカートのお尻の方を手で押さえる。
一瞬振り返った紗代ちゃんと目が合った。
紗代ちゃんは声こそださなかったが、焦った表情をしていた。
そしてまたすぐに走って消えていった。
・・・・
見間違えか?
いま、僕の目に入ったのは何かの勘違いか?
いま、僕が“見えた”と思ったものの影響で胸が高鳴っていく。
トイレの扉が開く。
自分の番を迎えてトイレに入って用を足す間も胸の高鳴りはやまない。小走りで遠くなっていく紗代ちゃんの後ろ姿が何度も頭の中をフラッシュバックする。
そのとき、僕の視界にフタが少しだけ空いたゴミ箱が目に入った。
用を終えた自分の手が勝手にそのゴミ箱に伸びた。
フタを開くと、そこには布が入っているのが見えた。
胸の高鳴りはさっきよりも大きくなっている。
もしかして・・・・もしかして・・・・
その布を手に取ると、ぐっしょりと濡れていることがわかる。
僕が手にした布は2枚重ねになっていた。重なった2枚を剥がして別々にする。
1枚は紺色のブルマだった。
そして、もう1枚。
こちらは白い綿の生地で、ちいさなさくらんぼが可愛くイラストされた女の子用のパンツだった。
ブルマもパンツもともに濡れているが、布のすべてに水気が含まれているわけではない。女の子の大事な部分に近しいところを中心にぐっしょりと濡れている。加えて、その布からはお祭り会場の屋台の匂いとは違う、ツンと鼻を刺す臭いが放たれている。
僕の頭の中に、さきほどの小走りで駆けていく紗代ちゃんの後姿が何度もフラッシュバックする。
ヒラリと舞い上がったミニスカート。
そこには、本来あるべきものがなかった。
さきほどの演奏時には履かれていたものがなかった。
紗代ちゃんが慌ててスカートを押さえて隠したのは、小さくて可愛いお尻だった。
僕は生まれて初めて、年頃の女の子の生尻を見てしまった。
だが、信じられなかった。
なんでそんなことになったのか。
なんで、紗代ちゃんはノーパンだったのか。
その答えは・・・いま手に取っているこの布が示している。
紗代ちゃんはやっぱりおしっこを我慢していたんだ。
でも、トイレに入った瞬間にその我慢は限界を迎えた。
パンツもブルマも脱ぐことができなかった。
便器の周りがあまり濡れていないことから、紗代ちゃんはブルマとパンツを穿いたまま和式便器にまたがり、しゃがんだことが想像できる。
素晴らしい演奏でチームを引っ張ったキャプテンは、身に纏っている可愛いパンツを脱ぐことができない状態でおしっこをした。
つまり、おもらしをしたことになる。
6年生が・・・・おもらしした。
キャプテンの子がおもらしした。
さっきまでハキハキとインタビューに応えていた子がおもらしした。
そのおもらしパンツが、いま、僕の手に・・・・。
トイレをあとにした僕は、急いでテントに戻ってカメラと腕章を受け取り、持ち場についた。
“大人の部”を撮影している時間も、歓声が湧きたつことがあったが、僕の頭にはなにも記憶されていない。
カメラを回す間、じんわりと湿っていくズボンの左ポケットに僕の意識は集められていた。
子どもたちのパフォーマンスの時間はとっくに終わっている。だが、映像と現物によって、半永久的に僕は彼女たちから元気をもらうことになった。
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控室に戻ってきた紗代は、急いで私服のズボンを履いていた。無論、それは何も履かれていない自分のお尻を隠すためだ。
着替えを済ませた低学年の子たちの様子から、自分たちの演奏の余韻が過ぎ去ったことが感じられる。みんな、どの屋台に行くかという話で盛り上がっている。
紗代と真由はこのあと屋台をめぐって一緒にお祭りを楽しむ約束をしていた。
だが、あくまでも予定は予定だ。
カバンの中に埋もれていたブルマを見つけ、自分が大勢の人に6年生らしからぬキャラクターパンツを穿いているのを見られてしまったことを知った女の子。
6年生なのに我慢していたおしっこを漏らしてしまったうえに、ノーパンのまま走ったために生尻を披露してしまった女の子。
下級生の後輩たちが「どこのお店にいく?」と楽しそうに盛り上がっている傍らで、顔を紅潮させている最上級生のふたりは、今日の素晴らしい演奏のことなど忘れて、いち早くお祭り会場から去ることを考えていた。
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